ジャンクションより 
ネットとシネマ、日本とアメリカの合流点から映画を語る
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2006年1月28日
「Match Point」人生の不条理、テニスの薬味
最近の話題作というと、アメリカインディアンのポカホンタス伝説「New World」あたりでしょうが、まずは見逃しているものから・・・といっても、ハリウッドのユダヤ人モノはちょっと食傷気味だし、戦争モノもこのところちょっと疲れたので、「Munich」も「Syriana」もパスして、ちょうど全豪オープンやってることだし(なんじゃそりゃ)、テニスに関係のある「Match Point マッチポイント」を見ることにしました。
ウッディ・アレンの久々の監督作ということでしたが、彼はテニスが好きなのでしょうか。というのも、よほどテニス好きでないと、ここまでテニスの薬味を見事にお話に練りこむことができないんじゃないか、と思うのです。そういえば、彼はニューヨークのUSオープンをいつも見に来ているような・・(記憶が定かでないのです、済みません)
貧しい家庭出身のテニスコーチ、クリス(Jonathan Rhys Meyers)が主人公。ロンドンの高級テニスクラブのコーチになったことで、富豪の息子トムと知り合い、彼の妹クロエとつきあうようになります。お父さんにも気に入られ、仕事も世話してもらい、とんとん拍子にいきそうなところで、トムのフィアンセであるセクシーなノラ(Scarlette Johansso)と怪しい関係になり、事態は泥沼に・・・
中盤、不倫関係がこじれていくところは、「あー、うさぎちゃんが煮られてしまう映画があったな・・・」とふと心配になりましたが、そのような爆発は起こさず、あっと驚くエンディングまで、息もつかせず緊張と意外な展開が続きます。すごく、よくできたストーリーだと思いました。
なんと、人生は不条理だなー、でも現実ってこうなんだよなー・・・というブラックな皮肉が印象に残ります。また、当初はそれほどの高望みをしていない堅実なクリスが、幸運に恵まれてよい生活をするようになると、だんだん変わっていってしまうリアリティも、お話を強力に引っ張っていきます。
冒頭、テニスのボールがネットの上を行き来するスローモーションから始まります。ボールはネットの上端をはじいて真上に飛びあがり、「ボールがネットのこちら側に落ちるか向こう側に落ちるか、その運が人生を決める」といったような語りがはいります。この印象的なシーンが思ったとおりにオチでも使われるのですが、その使われ方がまた意外。でも、テニスの薬味というのはそれだけではありません。高級テニスクラブに集う上流階級と、底辺のツアーで泥沼の生活を送るツアー・プロの世界との両方にまたがっているのがテニス。発祥は貴族のスポーツですが、貧しい子供でも習うことができて強くなれる、究極の「階級エレベーター」であり、上流と下流の絶妙な接点でもあります。人物や背景の設定にこれを効果的に使っていると思いました。(ま、俳優さんのテニスのウデ自体は、ご愛嬌ということで・・)
大ヒットする類の映画ではありませんが、確かゴールデングローブにもノミネートされて、オスカーの下馬評にもはいっているはずです。大人の味の映画です。
<1/28 追記>
書き忘れました。「ダ・ヴィンチ・コード」の宣伝がこの映画の前に流れましたが、うぉー、面白そう!原作を読みながら、「これって映画にするために書いたんと違うか?」と思ったほど映画的なお話で、宣伝映像でも、キリスト教の闇世界の独特な雰囲気が感じられて、ぞくぞくします。楽しみ!
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2006年1月26日
どんどん進むアメリカの「メディア融合」-ピクサーとディズニーの話
我が家の今朝のトップニュースはもちろん、「ディズニーがピクサーを買収」というお話。朝ごはんを食べながら亭主とその話をしていたら、小学3年の息子が「え?なんの話?」と聞くので、「ニモやインクレディブルズを作っているピクサーという会社を、ディズニーが買ったのよ」と説明してやったら、「それじゃぁ、ディズニーのアニメーションの技術がよくなる、ってことだね。」と即座に分析。「チキン・リトル」とピクサーの映画の技術レベルは、小学生にすらはっきりわかるぐらいの差がある、ということのようです。
ピクサーの創業者は、ご存知アップルCEOのスティーブ・ジョブス。この買収で、ジョブスはディズニーの筆頭株主で取締役会メンバーにもなりました。日本ではホリエモン騒ぎで、もともとマスコミ的で胡散臭い感じのあった「放送とネットの融合」が後退してしまいそうなのに比べ、アメリカでは新年になってからだけでも、ものすごい勢いで、いろいろな形で新しい潮流が顕在化しています。
引き金になったのは、去年秋の「ビデオiPod」の発売。アップルのiTunes Music Storeでテレビ番組が買える、という仕組み(ちなみにこのとき番組を提供したのがディズニーでもあった)で、この分野に興味を持ちながらぐずぐずしていたメディア・エスタブリッシュメントの御仁たちがこれで恐怖にかられました。
そして、正月明け早々にラスベガスで開催された、巨大な業界イベント「家電ショー(Consumer Electric Show)」。ここで、GoogleがCBSと提携して有料映像ソフト配信を始めるとか、Yahoo!が「どこでもYahoo」(TiVoとの提携、モバイル展開、などなど)とか、なにしろ動画配信関係に、コンテンツ側も積極的に動き始めた様子が、一気に噴出してきたのです。
アメリカでも、ハリウッドはこうした動きに対応するのは一番最後になるでしょう。一方、CBSなどの地上波テレビは、日本より一足先に、広告予算をネットにごっそり持っていかれるようになって、懐への打撃が深刻になりつつあり、座して死を待つよりは、先に動いたほうが勝ち、という状況になっています。
「ほら、私が言ったとおりでしょ。」昨年春頃から、「あと1年から2年の間に、アメリカではネットでのコンテンツ配信が急激に動き出して、ネット配信に適したようなタイプのコンテンツの需要が急激に増大する」と、クライアントに言い続けてきた私としては、予言的中で嬉しい限りです。日本の方の多くは、アメリカはブロードバンド後進国で、遅れててどうしようもない、と思われているでしょうが、そうではないのです。
さて、この「ネット配信に適したコンテンツ」の中に、「邦画」というのもはいる、と思っているのです。長くなるので細かい話は省きますが、今は経営学でいう「discontinuity」(不連続点)にあたり、何か新しいものを持ち込む絶好のチャンス、だと私は思っているのですが、日本の関係者の方々、いかがでしょうか?
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2006年1月 8日
「40-Year-Old Virgin」抱腹絶倒!アメリカ版「電車男」
実は、この業界にいながら、Netflixは今回初めて利用しました。ネットから注文して、郵便で届けてくれるDVDレンタルです。月々決まった会費を払って、郵便で送り返すと次のを送ってくるシステムなので、延滞料を払わなくてよいとか、店まで返しに行かなくてよいとか、いろいろ利点がありますが、一ヶ月10ドル(1000円より少し多い)の会費分借りるのかな~、という疑問があって、今まで使っていませんでした。しかし、来週「トニー滝谷」とか「下妻物語」などのアメリカ版DVDが出るにあたり、こういう超ニッチなものは、アマゾンで買うかNetflixで借りるかしか選択肢がない、しかしアマゾンで一枚20ドル以上払う気はない、それよりはNetflixでやってみるか・・ということになりました。思ったよりも使い方は簡単で、なかなかよくできた仕組みですね。クセになりそうです。
で、どうせ会員になった(最初の1ヶ月は無料)ので、昨年秋にヒットしたコメディ、「40-Year-Old Virgin」を借りてみることにしました。ビルボードの今週のビデオレンタル・チャートでもトップを占めています。テキサス様の「映画コンサルタント日記」によると、日本ではアメリカ版コメディは人気がなく、この映画も公開予定はないそうですので、普段よりもちょっと詳しく書いてみます。まぁ確かに、これは英語の問題だけでなく、アメリカの普段の生活感覚に基づく皮肉も多いので、日本で笑いをとるのは難しい気もしますが・・・
それにしても、これは久々の抱腹絶倒、大笑い映画でした。涙が出るほど笑いましたがな。題名そのものズバリ、カノジョいない歴40年の童貞男が恋をするお話。テーマからしてもわかるように、かなりきわどいジョークや場面(いずれも、エッチというよりお笑いの要素なのですが)もあり、大人向けです。このあたりのジョークの感覚と、40代非モテ男という題材は、昨年のアカデミーで意外な話題を呼んだ「サイドウェイ Sideways」と共通のものがあると感じました。ただ、「サイドウェイ」よりもっと大衆お笑い指向で、アカデミー賞にはマッタク縁がなさそうですが。
主人公アンディ(スティーブ・カレル)は、電機製品を売る店の店員で、人とあまり話もせず、自宅には膨大なヒーローものの人形などがキレイに整理されて並ぶ、典型的なオタク男。ある日ひょんなことから職場の同僚にまだ童貞だと知られてしまう。同僚たちが、彼をなんとかしようと余計なアドバイスやお節介を次々と繰り出す中、彼は店に現れたセクシーな同年代の女性に心惹かれる。しかし、これまでの人生で、大事なところで失敗ばかり繰り返した彼は、彼女にアプローチする勇気がない。ようやく仲良くなっても、一線を越える自信がない。そして、ようやく「その日」がやってきたのだが、さて・・・
先にマイナス点を言うと、アンディが筋骨隆々でそれほど醜男でもなく、「非モテ男」としても現実感がやや薄いこと。職場は「Super Tech」とかいう名前で、グレーのポロシャツの胸に「TECH」と書いたロゴがはいっているとそれなりにオタクに見えるのだけど、しょせんテレビやオーディオを売る電機製品店で、コンピューターを扱う場面がマッタクないというのも、世界に冠たるオタク王国シリコンバレーに住む私としては、ややオタク描写が物足りない感じです。日本の「電車男」のオタク像のほうが、はるかにスゴイと思います。まぁでも、街の感じからして舞台はロサンゼルスだし、本題にはそれほど重要でないので、スルーします。それと、相手の女性がやや現実感に乏しい(なぜアンディに一目惚れしたのかマッタクわからない)のも、「電車男」におけるエルメスの存在に似ていますね。ま、でもこれもスルー。
もちろん、同僚達の繰り出すお節介や、彼が懲りずに繰り返す失敗のドタバタ、キレのいいセリフなどが本来のネタなのだけれど、何がおかしいって、職場のサラリーマン・ジョークや、同僚の別れた彼女がインド人だったり、キビシイ上司が女性で、アンディにやんわりと逆セクハラをかけてきたり、といった「今風」の生活感をうまく料理してネタにしているところが良!特に、同僚の彼女だけでなく、やたら口の悪い別の同僚もインド人だし、バイアグラのカスタマーサービスに電話したら出てきたのもインド人だし、なんだかインド人ネタが多かったですねぇ。それと、アンディがやたら濃い胸毛をなんとかしろと言われ、同僚に連れて行かれた「脱毛ワックス屋」は日本人の女性で、これがまた大爆笑。「インド人」「東洋人」という、アメリカにおける「テクノロジー系オタク」の記号をちりばめているということかもしれません。
とにかく、ジョークのキレがやたらいいです。テンポよく笑い続けて、最後の場面で突如出現する大団円でもう激涙出まくりの大笑い、さらにDVDについているボツ場面集でさらに爆笑を堪能できます。
それにしても、同じ年に、日米ともに、オタク男が「復活」するコメディがヒットした、というのも、面白い現象ですね。ちなみに、飛行機の中で見た「電車男」も、隣のアメリカ人のおじさんがつられて見てしまうぐらい、爆笑しまくりました。
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2006年1月 1日
「Brokeback Mountain」 大自然の中の強烈なる孤独
★★★★★[100点](0-100点)
日本ではもう元日ですね。あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。当地ではちなみに、今日本語チャンネルで「紅白」をやっています。
子供がずっと家にいるので、なかなか劇場まで映画を見に行く機会がなく、しばらく新作の話がなくてすみませんでした。ようやく時間ができたので、やはり一番評判のいいものを見よう、ということで「ブロークバック・マウンテン Brokeback Mountain」を昨夜見ました。ベネチアで大賞を取り、ゴールデングローブでも一番多くのノミネートを得ており、批評家の評判もよかったのですが、少し前まで70スクリーンぐらいの限定公開だったので、こりゃーサンフランシスコまで遠征しないとダメかな、と思っていたら、ボックスオフィスで大健闘した結果か、近くのシネコンでもやっていました。やったー!
前評判どおり、すばらしい映画でした。1960年代のワイオミング、夏の間、山で羊の番をするカウボーイ二人が禁断の恋を育む。その後二人は遠く別れてそれぞれに結婚し、社会に溶け込んでいくように見えたが、4年後に再会。そこから、二人の「普通の生活」の歯車が少しずつ狂いだしていく・・・
おそらく、アメリカ人としての文化や心情の基盤が育ってくる過程のどこかに、この美しくも強烈な、ワイオミングの大自然と、西の辺境の「孤独感」というのが作用しているのではないかと思います。彼らにとっての、心の原風景がここにあるような気がします。アメリカ人でなくても、この孤独感、寂寥感、「結局人は一人で生まれて一人で死んでいく」ということを痛いほどつきつけられることはあります。周囲の人間も含め、誰も悪いことをしようと思っているわけではないのに、どうしようもない周囲の制約と、心の底から湧き出るどうしようもないほどの愛の奔流に流され、痛みをかかえながら生きていかざるを得なくなる・・しかし、この主役の無口なカウボーイ、エニス・デルマーのこの強烈なる孤独との「折り合いのつけ方」というのは、アメリカの辺境的なんだろうな・・・と思いました。日本の映画のように、涙がバンバン出る感じではないのです。無人の荒野を風が吹き抜けるように、心を風が吹き抜けていく・・そんな感じなのです。(ちなみに、監督はアメリカ人じゃなくて、アン・リーですが。)
主役二人(ヒース・レッジャーとジェイク・ギレンハール)の演技はすごいです。カウボーイ英語が全く聞き取れず、ただでさえ無口なエニス(レッジャー)がぽつんぽつんと話す身の上話が、私にはほとんど謎解きのようでしたが、これも含めて、悲哀を帯びた表情も、年月を経て変化していく様子も、ものすごいリアルです。演技だけでなく、場面の作り方もリアル。たとえば、「たそがれ清兵衛」を見て、「あーそうか、武士って実は公務員だったんだ!」と気がついて急にその実在感が増すのと同じように、この映画の前半部では「あーそうか、カウボーイってのは、実は農家だったんだ!」というリアリズムで彼らが身近に感じられるようになります。何百頭という羊を追い、怪我をした羊の手当てをし、牛にえさをやる。そんなディテールと人っ子一人いない大自然の中の圧倒的な美しさが印象的です。
エニスのほうの視点で主に描かれていますが、相手のジャック・トゥイスト役ギレンハールのかっこよさも大注目です。彼のほうがゲイ指向がもともと強いという役回りで、登場いきなりのっけから「うわぁ、こんなアブない色気丸出しでいいのぉ~~!?」でございました。オバサンには刺激が強すぎました。ハイ。
ゲイのカウボーイの映画、というまとめ方をしてしまうと、だいぶ誤解を招く映画ですが、なんといってもゲイに対して寛容なサンフランシスコのこと、当地ではヒットしても不思議はありません。ただ、映画の舞台になった、保守的な真ん中へんは、どう受け取るのでしょうか?
いずれにしても、私的には、今年見たアメリカ映画の中では一番、といってよい映画でした。
Posted by Michi Kaifu on 2006/01/03 with 映画生活
「Brokeback Mountain」 大自然の中の強烈なる孤独 on アメリカ映画 : 09:39 | コメント (7) | トラックバック


