2006年05月12日
「クラッシュ」あまりにアグリーで透明な現実の刃
お久しぶりです。なかなか、映画見に行くヒマがありません。それで、もう日本でもとっくに公開されたし、アカデミー賞の話題もはるか彼方の話なのだけれど、ようやくDVDで見られた「クラッシュ」、やや予想外の映画でもあり、ちょっと感想を書いてみます。
5月5日は、日本では子供の日ですが、当地では「シンコ・デ・マヨ」(スペイン語で「5月5日」)という、メキシコの独立記念日にあたり、これを一部の人々は祝います。そのちょっと前に全米各地で、ヒスパニック系を中心とする不法移民達が一斉に職場放棄して、ブッシュ政権の不法移民取り締まりの強化に反対するデモを行いました。「911」(同時多発テロ)以来、マイノリティや移民に対するアメリカの空気は、どんどん厳しくなっています。アメリカの中でも、私の住むカリフォルニアは、外国生まれの移民が数も多く、ハイテク産業から農業や家内労働まで、いろいろな分野で生活を支えています。そのため、マイノリティやその人たちと直接接するマジョリティの白人も、逃げようにも逃げられないお互いの関係に、フラストレーションがたまっているように思います。
特に、この映画の舞台となったロサンゼルスは、その関係が一番厳しい土地だと思います。「クラッシュ」では、ロスの一角で、白人の政治家とその妻、黒人の刑事とヒスパニックのガールフレンド、黒人の若者、イラン系家族、裕福な黒人夫婦と労働者の家族、中国系の男、などいろいろなエスニックの人々が、どこかで関連しながら小さな事件、大きな事件を起こしていきます。誰が主役かわからない群像劇で、おとぎ話のような数多くのエピソードが次々と重なっていきます。
その中で登場人物達は、普段皆が腹の中のどこかで思っていても口にできない差別的なことを、堂々と言い放ちます。あまりにアグリーですが、「あー、でもそういうこと、あるよな」、「あー、こういうこと言いそうなやつ、いるよな」とどこかで共感するリアリティがあります。ここまではっきり言っちゃうとかえってスッキリする、かえって笑えてしまう、ような快感と言ってもいいかもしれません。
その一方で、お話は予想外の展開が次々と起こり、悪いヤツに見えていたヤツが実はそうでもなかったり、その逆だったり。この人とこの人はどこでどうつながるのか。あらゆる悪いものが一斉に飛び出した後に、一匹の「希望」が最後に残る、パンドラの箱かとほのぼのすると、今度はどーんと落とされます。事件の起こる時間や場所や人物が次々と変わっていく割りに、ごちゃごちゃにならず、引っ張り込まれるのは、ストーリーの面白さと、印象の強い登場人物達を演ずる、俳優さんたちの力ではないかと思います。
特に、「いい子チャン」役が多い印象のあるサンドラ・ブロックが、いかにも上流の白人女性にありそーなイヤーな女をガンガン演じているのが新鮮です。「ホテル・ルワンダ」のドン・チードルなど、他の役者さんも、みな熱演です。
このところ、「いい映画」と言われる映画は、いいのだけど私には見ていて苦しいものが多く、これもその一つかと思っていましたが、しゃれた音楽や画面のつくりも手伝って、意外に突き抜けたような軽さと透明感があります。かさにかかってマイノリティを圧迫する、最近の右傾化したアメリカのマジョリティに「どぉだー!」と「現実」という刃をつきつけているような、そんな快哉の感覚が残る映画でした。
なお、今回の「いい男」収穫は、黒人音楽プロデューサー役のテレンス・ハワードですねっ!品があって優しげで、複雑な思いを表現した表情の演技がすばらしかったです。
「クラッシュ」あまりにアグリーで透明な現実の刃 on アメリカ映画 : 2006年05月12日 14:38
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